多施設共同研究を実施するためのコツ
2021年7月時点で、私(達)はレターなども含めて45報(英21、和24)の実績があり、そのうち40%(20報)が多施設共同研究でした。
このことから、私の研究実績は多くの他施設の先生方のご支援およびご協力に基づいていることがわかりました。
また、これらの設共同研究のうち15報は私以外が筆頭著者となっており、筆頭著者となった先生方と多くのディスカッションを重ねることで、得ることができた成果です。
今回は多施設共同研究を成功させるためには、何が必要かを考えてみました。
私の強みは「多くの先生方と共同で論文を書いたことがある」ということです。そのため、初学者が陥りがちなピットフォールなんかも、比較的わかっているつもりです。
あくまで、中小病院の薬剤師がどのようにやったら良いかという視点ですので、ご了承ください。
まずは連携活動から
まずはメーリングリストなどを活用し、日々の連携を強化・継続するなど、情報交換から始めるのがお勧めです。
活発なディスカッションから研究へ
情報交換が活発になると、エビデンスに基づいた議論が展開され、エビデンスのない領域に関しても共通認識が作られます。それを解決するための共同研究であれば、参加する側も当事者意識が出てくるため、参加意欲が向上する可能性があります。
育成の視点
研究に伴う学会発表や論文作成は、各種認定・専門薬剤師の認定要件になっていることが多いです。せっかく研究するのなら、地域全体で薬剤師を育成していく姿勢も大切にしたいですね。また、多施設共同研究に参加することで、調査シートが入手でき、解析のプロセスなども共有することができるため、初学者にとっては研究を学べる絶好の機会となると思います。
既存のリソースを利用する
新しい研究グループを立ち上げるのはとても多大な労力が必要となります。既存のグループなども利用して、積極的に連携をすすめることは、多施設共同研究の実施の近道となる可能性があります
大学の研究室と連携
培養検査や遺伝子解析などの基礎研究も加えることで、研究の幅はさらに広がると思われます。
多人数でのディスカッションがイノベーションを生みだす
ディスカッションの中から素晴らしいアイデアが生み出されることを、しばしば経験します。研究計画や論文執筆時点でも、このようなプロセスは非常に重要です。逆に意見をもらえなかった研究は、難航することも多い印象です。
経験者がサポートする
多施設共同研究の倫理審査や研究計画などは、初学者にとっては高いハードルとなりますので、経験者が積極的に関わることで、ハードルを下げることが可能です。自主性・自立性という観点も重要ですが、仕事をしながら研究をするだけでも大変な労力になります。それも多施設共同研究となると相当なプレッシャーとなる可能性もあるため、研究を完遂させるためには、周囲のサポートも非常に重要となります。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
以下にこれまでの多施設共同研究を掲載させていただきます。
【英文】
Regional outbreak of methicillin-resistant Staphylococcus aureus ST2725-t1784 in rural Japan
新潟県秋葉区のMRSAを対象として遺伝子解析を実施。同系統のMRSAが多く流行しており、また外来検体からも検出されていたため、病院だけでない伝播の可能性を報告。
Does Quinolone- or Macrolide-Resistant Streptococcus agalactiae Bacteremia Affect Patient Outcome? A Multicenter Cohort Study
新潟県内での溶連菌の血培陽性例を集積して解析した報告。日本ではキノロン使用量が多いため、キノロン耐性の溶連菌が多い可能性があります。ただ、一般的にはペニシリンで治療されるため、キノロン耐性は予後には影響しなかったという内容です。
Inappropriate sales of hypochlorous acid solution in Japan: An online investigation
COVID-19の流行による消毒薬の不足を受けて、次亜塩素酸水の不適切な使用・販売が増加している現状を調査した。この研究は共同執筆者から多くの貴重な意見をもらったおかげで、非常に完成度の高い内容となりました。投稿して数日で一発アクセプトだったのが今でも印象的です。
Use of personal protective equipment while admixing antineoplastic drugs during the COVID-19 pandemic era: Questionnaire survey in Niigata, Japan
COVID-19の流行によるPPEの不足を受けて、新潟県内で緊急アンケートを実施した報告。PPEが非常に不足した現状が、大きく結果にあらわれています。
Advanced Age is not a Risk Factor for Mortality in Patients with Bacteremia Caused by Extended-Spectrum β-Lactamase-Producing Organisms: a Multicenter Cohort Study
新潟県内でESBL産生菌の血液培養用例例を集積して、年齢と抗菌薬の選択に関して検討した報告。
Does Quick Sepsis-Related Organ Failure Assessment Suggest the Use of Initial Empirical Carbapenem Therapy in Bacteremia Caused by Extended-Spectrum β-Lactamase-Producing Bacteria? :A Multicenter Case-Control Study
新潟県内でESBL産生菌の血液培養陽性例を集積して解析した研究
qSOFAスコアと予後の関連性も含めて解析した。
Impact of alcohol-based hand sanitizers, antibiotic consumption, and other measures on detection rates of antibiotic-resistant bacteria in rural Japanese hospitals
新潟県内の手指消毒薬使用量と個人防護具の消費をMRSAなどの耐性菌検出数と比較した研究。
(いくつかの海外の工学系の論文に引用されており、悪用されていないか心配です。)
新潟のCHAINという多施設・多職種連携の会の薬剤師部会で取り組んだ経口抗菌薬のアンケート調査です。
第三世代セファロスポリンのDDD/DOTとESBL産生大腸菌の検出頻度が負の相関を認めました。かなり議論は単純化していますが、第三世代セファロスポリンの投与量が少ない施設はESBL産生大腸菌が多かったという結果です。ここから第三世代セファロスポリンの投与量が少ないとESBL産生大腸菌が増えるかも知れないという結果が示唆されました。Letter to the Editorではありますが、そこそこの雑誌に掲載してもらえました。
私は2nd authorですが、1stの先生とたくさんのディスカッションを重ねて完成した論文でしたので、形にできて本当に良かったです。
【邦文】
感染防止対策地域連携活動による感染制御活動の改善効果 手指消毒薬使用量および薬剤耐性菌検出率に与える影響
日本環境感染学会誌35巻6号 Page241-246(2020.11)
施設の特性および専門職種がカルバペネム系抗菌薬の採用状況に及ぼす影響 新潟県におけるアンケート調査
日本環境感染学会誌35巻1号 Page43-47(2020.01)
新潟県内における抗菌薬適正使用の実施状況の変化と実施に関連する因子の検討
日本化学療法学会雑誌67巻1号 Page44-50(2019.01)
電子レンジ加熱での清拭タオルの温度変化と加熱によるBacillus cereus菌量の変化
日本臨床微生物学雑誌(0917-5059)28巻4号 Page276-278(2018.09)
多施設間における清拭タオルのBacillus cereus菌数と洗濯方法の比較検討
日本環境感染学会誌(1882-532X)33巻5号 Page220-224(2018.09)
新潟県内における抗菌薬の薬物治療モニタリング実施状況の変化と実施に関連する因子の検討
日本環境感染学会誌33巻2号 Page62-66(2018.03)
新潟県5施設におけるMRSA分離率に影響する因子の検討
日本環境感染学会誌31巻1号 Page36-40(2016.01)
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