最近のいくつかの研究を通じ学んだこと
少しあいまいなタイトルになってしまいましたが、因果推論とかtarget-trial emulationなどとタイトルに入れられるほど専門性の高い知識は持ち合わせていないので、こんなテーマのタイトルで、ここ1年くらいで主にReviewerやEditorからの指摘で学んだ情報を整理しようと思います。
学びのきっかけは上記研究論文でCKD患者でオキシコドンが安全に使用できるかどうかを報告したものでした。2023年1月にsubmitして、10リバイスを経て2023年10月にacceptいただきました。
最初のリバイズではそもそも専門用語を使用できておらず、censorとかpatient selectionの方法など一から整理しなおす必要あり、下記の論文を参考にしながら、大幅修正しました。
また、必要な共変量の追加(併用薬、Charlson comobidity indexの病名と陽性的中率、レスキュードーズの使用、オピオイドの投与量など)の指摘を受けて、大幅にデータを追加しました。
このあたりの詳細は別記事にまとまてあります。
Fine–Gray 競合リスク回帰モデル
セフトリアキソンとランソプラゾールの併用が心室性不整脈および心停止リスクを増加させるかもという内容の研究論文です。
JAMA opneに報告されたBaiらの論文を読み、自分もやってみようと考えました。もしネガティブなデータになっても十分価値のある内容だと思いましたし、実際ネガになるのではと思って取り組み始めました。
研究をデザインしたあたりから、周囲からの評価が高く、自分としては新規性に乏しいような気もしていたので、意外な心境だったのですが、結局掲載されたジャーナルも良いところで、自分の評価より他の方の評価の方がアテになるのかなという気持ちです。
オキシコドンの論文で学んだ通り、アウトカムと共変量の定義は明確にして、また可能な限りの共変量を洗いだして論文を作成してみました。
今回の研究場合は薬剤の暴露期間は短く、かつ共変量の併用薬の定義が1つの薬剤に定まっていないものもあったので、薬剤の共変量もtime-fixにしました。
当初の研究デザインはCTRXを使用し、かつPPIを併用した患者群を抽出して解析しました。ランソプラゾール以外のPPIがネガコンになるので、このデザインで十分だろうと想定していました。
一方、1回目の査読コメントでは2名のreviewerからCTRXのネガコンを設定せよという指示でした。必要かどうか懐疑的に思いながらもSBT/ABPCをネガコンに追加し、大幅に修正解析を実施しました。得られた結果はかなり綺麗で、ネガコンのSBT/ABPCでは心室性不整脈/心停止リスクの増加は観察されず、やっぱり良いジャーナルの査読コメントは素晴らしいなと改めて実感しました。また、全死亡もアウトカムに追加して調査すべきではというコメントもいただき、これをセカンダリーアウトカムに設定しました。
2回目の査読コメントで、死亡はプライマリーアウトカムの競合リスク因子である可能性あるので、それに対処するような指示のコメントがありました。Rを使って解析しているのなら"cmprsk"というパッケージで簡単にできますよ、有難いアドバイスもついていたので、比較的簡単に実行できました。
観察期間の死亡の発生を競合リスク発生ありとしてデータセットを作成して解析するだけなので、解析自体は結構簡単にできます。以下のブログなども参考にしました。
https://toukeier.hatenablog.com/entry/2019/08/15/221343
他にもPSマッチして患者背景をそろえた方が良いなどのコメントもありましたが、とりあえず上記改定のみに対応して、再提出した後、アクセプトをいただきました。
Xでも国外の先生からコメントもらえたりして、一定の反響があったのはうれしかったです。
2重ロバスト推定とアウトカムとしてのAKI基準
doubly robust推定はIPTWでベースラインの共変量を調整し、さらにCox回帰で全ての共変量を調整する手法で、他の論文などで見たことはあったのですが、そこまでやらなくても・・・という気持ちで勉強してこなかったんですが、とうとう査読コメントに入ってきたので、勉強しながら実装しました。専用のRパッケージもいくつかあり、Cox回帰のパッケージも幸いもweightingに対応していたので、やってみたら比較的簡単にできました。
WeightItパッケージでIPTWを計算し、データフレームに追加
https://mstour.hatenablog.com/entry/2022/06/09/213033
cobaltパッケージでlove plotの作成
https://cran.r-project.org/web/packages/cobalt/vignettes/love.plot.html
survivalパッケージでweightを考慮した時間依存性Cox回帰分析が可能です。
この研究で一番もめたのは、アウトカムの定義が当初KDIGOのAKI定義に完全には準じていなかったことでした。血清クレアチニンはそうそう測られていなことも多いので、最初はday 0から365日前までの血清クレアチニンデータをベースラインと定義して、その後に薬剤曝露期間に血清クレアチニン値の測定が1点以上あった患者を対象にしました。この基準だと7日以内の1.5倍増加、2日以内の0.3mg/dL増加の基準を満たさず、reviewerからかなり指摘がありました。一旦は薬剤曝露期間中に血清クレアチニンが2点以上測定があった患者のみを対象にしましたが、これだと患者数が少なすぎるのと、血清クレアチニンの頻回測定がある患者というバイアスが大きいのでは?とEditorより指摘があり、最終的には薬剤曝露期間に血清クレアチニンが1点以上ある患者を対象として、AKIはKDIGOの基準を完全に満たした場合に判定しました。
血清クレアチニンのデータをどう処理するかもかなり悩んで、途中から全ての血清クレアチニンデータのペアを抽出してKDIGO基準を満たすかどうかを判定するコードを作成できたので、このあたりの成果も今後の研究に繋げることができたかなと思います。
結果的にNが減ってしまい統計学的な有意性はなくなりましたが、方法論的にはより頑健でバイアスリスクが少ないものにできたと思います。オキシコドンの論文の時と同じassociation editorがついたので、試験デザインについて色々な指摘と再解析指示をいただきましたが、今回もかなり勉強になりました。
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