研究のアイデア


研究のアイデアは様々な場面でひらめくことがあります。


臨床

臨床で仕事をしているので、ここがアイデアとして最も重要だと思っています。

- 自分が感じた疑問

- 医師や看護師など多職種から聞かれた質問

特に臨床経験が豊富な医師の素朴な疑問や経験則などは重要なアイデアにつながることがあります。


重要なのはこれらの疑問を解決するための研究があるかどうかをPubmedなどを用いて調べることです。たぶん良い文献がなかった場合は、自施設の過去データを調べることもあると思います。これらの調査は後ろ向き研究に繋がっていくと思います。


もう一つ大切な視点として、研究テーマが臨床的に重要かどうかという点があります。いくら自分の興味が強くても、その研究テーマが臨床で役に立たなければ、研究成果として発表する事は難しくなります。これらをブラッシュアップするために大切なことが、他の人の意見を聞いてみることです。同職種・多職種の意見を研究に取り入れることで、クリニカルクエスチョンは必ずブラッシュアップされていきます。


臨床医と共同研究をした経験もいくつかあります。医師の方から「今度薬を変えるけど、評価してくれない?」と持ち掛けられることもしばしばあり、それらを論文化した経験もいくつかあります。既存の論文を調べて、フォローする効果や副作用、検査値など設定定し、薬の変更後の経過を追うので、患者さんにとっても有益なのではと思います。

Low Continuity Rate of Sucroferric Oxyhydroxide among Japanese Hemodialysis Patients with High Phosphate Binder Pill Burden

Comparison of Clinical Advantage between Topiroxostat and Febuxostat in Hemodialysis Patients


ジスチグミンの副作用発現時はChE値が低下しますが、大規模に調べた調査はありませんでしたので、自施設のデータをまとめた研究もしました。

Effect of Patient Age, Dose, and Chronic Kidney Disease on the Risk of Adverse Reactions to Distigmine


稀なケースはケースレポートとして共有する事も、重要だと思います。

Interstitial lung disease following FOLFOX + FOLFIRI and bevacizumab therapy associated with leucovorin: A case report



他の人の研究に触れたとき

論文を読んだり、学会の発表を聞いたりすると、「このような場合はどうなんだろう?」など追加の疑問が生じることがあります。これらの疑問は新しい研究につながります。


例えば、抗凝固薬関連腎症という副作用があることを、ある論文の査読コメントから知りました。ワルファリンやDOACが原因とされているのですが、リスク因子に関する報告は少ないようでした。

Differences in risk factors for anticoagulant-related nephropathy between warfarin and direct oral anticoagulants: Analysis of the Japanese adverse drug event report database

この研究ではワルファリンとDOACによる抗凝固薬腎症のリスク因子の違いについて言及していますが、研究当初は違いがあるとは考えていませんでした。しかし、研究のプロセスでリスク因子に違いを認めたため、メインテーマを変更しました。


あるセミナーでCKD患者さんのメトトレキサートのデータが少ないということ聞き、取り組んだ内容が下記の論文になります。

Risk of haematological events and preventive effect of folic acid in methotrexate users with chronic kidney disease and rheumatoid arthritis: Analysis of the Japanese Adverse Drug Event Report database

このように、その領域のプロフェッショナルの方の発表や総説論文などは、今後必要な研究テーマを明確化してくれます。


学会誌は定期的に新しい論文を、メールなどで連絡してくれるサービスを行っています。これらの新しい研究を読むことは臨床業務にも役立ちますが、新しい研究テーマが生まれることもあります。


例えば、

①バクロフェンには呼吸抑制の副作用がある

②CKD患者さんでは腎排泄型薬剤であるバクロフェンによる副作用リスクが高い

という2つの論文を読んだところで、CKD患者さんはバクロフェンによる呼吸抑制の副作用のリスクが高いかもしれないという疑問が生じます。これは理論的に考えても正解である可能性は高いかもしれませんが、それが臨床データに基づいていればエビデンスとしてはより強固な根拠になると思います。

Association Between Baclofen and Respiratory Depression in Patients With Chronic Kidney Disease


地域連携

薬剤師が地域で連携する事は大切です。日常業務の細かい点などはエビデンスに基づかなくても、経験則で解決することや、他施設の取り組みを聞くことで効率化ができることはたくさんあります。さらに、日ごろからの情報交換は新しい研究につながる可能性も秘めています。


病院内のタオルはB.cereusで汚染されていることが多いのですが、各施設でそのタオルをどのように扱っているのか議論になったことがあります。そのようなディスカッションの結果から、始めた研究もありました。

多施設間における清拭タオルのBacillus cereus菌数と洗濯方法の比較検討

電子レンジ加熱での清拭タオルの温度変化と加熱によるBacillus cereus菌量の変化 


他にも地域連携を通じた研究成果はたくさんあります。

Association between extended-spectrum β-lactamase-producing Escherichia coli and oral third-generation cephalosporins

Does quinolone- or macrolide-resistant Streptococcus agalactiae bacteremia affect patient outcome? A multicenter cohort study

Use of personal protective equipment while admixing antineoplastic drugs during the COVID-19 pandemic era: Questionnaire survey in Niigata, Japan

Does Quick Sepsis-Related Organ Failure Assessment Suggest the Use of Initial Empirical Carbapenem Therapy in Bacteremia Caused by Extended-Spectrum β-Lactamase-Producing Bacteria? :A Multicenter Case-Control Study

Impact of alcohol-based hand sanitizers, antibiotic consumption, and other measures on detection rates of antibiotic-resistant bacteria in rural Japanese hospitals


大学と連携

大学と連携することで、自施設では解決できない課題にも取り組むことができます。

また、論文を書き慣れている大学の先生から指導をしてもらえる機会があれば、さらに研究や論文がブラッシュアップされていくと思います。

Regional outbreak of methicillin-resistant Staphylococcus aureus ST2725-t1784 in rural Japan

Stability of probiotics with antibiotics via gastric tube by simple suspension method: An in vitro study


全国の仲間との連携

学会などで出会った全国の仲間と研究するのも良いと思います。自分ひとりではできなかった、思いつかなかったアイデアが、集合知となることで、大きなインパクトを生み出す可能性があると思います。

Inappropriate sales of hypochlorous acid solution in Japan: An online investigation


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