日本語での論文を書いてみる
論文は英語で書くべきといわれることも多いですが、まずは日本語からチャレンジするというのも良いと思います。実際、私もそうでした。
特に初学者に多いのが、各パラグラフでのメインテーマが明確になっていないことだと思います。これは論文を書き慣れていないということが最も多い原因だと思われます。
書いていく順番
図表→結果→方法→考察→はじめに の順番がおすすめです。
お勧めのフレームワーク
決まった型があるわけではありませんが、以下にお勧めのフレームワークを記載します。
はじめに(緒言)
1stパラグラフ 研究の背景
2ndパラグラフ 問題提起
方法
研究期間、対象
定義した用語
統計解析
結果
方法に対応するように得られた結果を記述する。
図表の繰り返しの説明はなるべく避けるが、メインの結果は文章でも解説する。
*日本人のレフリーは詳細に結果を説明することを好まれることが多い印象です。(反対に国際的なジャーナルは図表に示した結果の繰り返しは避けるよう指示していることが多いです)
考察
1stパラグラフ 本研究で明らかになったこと
2ndパラグラフ 本研究で明らかになったこと
3rdパラグラフ 研究の限界
4thパラグラフ まとめ
その他
表紙、利益相反など
それぞれのパートの執筆ポイント
はじめに(緒言、イントロダクション)
1stパラグラフ 研究の背景
いきなり本題に入らずに、書き出しは一般論的な話題から入りますが、雑誌の読者が専門領域か一般誌なのかによってちがいます。また、例えば薬剤師関係の学会誌に提出するなら、薬剤師としての臨床的に貢献できる内容であることをアピールしたほうが良いと思っています。
*雑誌の読者を想像することはとても重要です。
2ndパラグラフ 問題提起
今回の研究結果がどのような臨床的な問題を解決する可能性があるのか、または現在臨床的なトピックになっているのかを記載します。
*"はじめに"のパートは一番最後に書きます(または修正されます)が、これはメインの結果から導き出された臨床的有用性を、いかにしてイントロでアピール出来るかという視点が大切ということになります。研究を始めた動機を正直に書いてしまうと、一般的には個別的な主観の問題の解決となってしまう場合が多いです。それよりも自分が明らかにした結果が臨床的にどのように役立つのか、または薬剤師という業務にどのように役立つのかを、十分に考えアピールすることが大切です。一方で、こじつけ的な無理のあるイントロダクションは歓迎されませんので、バランス感覚を保ちながら熟考する必要があります。
*これまで比較的多くの方の論文のお手伝いをさせて頂く機会がありましたが、初学者の方の最も不利は点は、この熟考ができていない点だと思います。もう少し工夫するだけで論文の見た目は大きく変わります。忙しくて時間がないのもわかりますし、早く提出したい気持ちも理解できます。ただ、この部分を怠ると、結果的にはもっと時間を浪費してしまう可能性が高いと思います。
*気をつけたいのは引用文献の羅列のみの情報になっていないかという点です。引用文献はあくまで執筆者の意見を補強するためのものですので、基本的には自分の仮説とその理由を自分の言葉で述べて、それを過去の文献で補強していくというスタイルが良いと思います。
方法
・研究期間、対象
いつからいつまでの期間のデータを調査したのか、アンケートならいつからいつまでが回答期間だったのかを記載します。対象もすべてを対象にしたのか、除外基準は何だったのか、誰を対象にアンケートをとったのかなどを記載します。
・定義した用語
研究では何かしらを定義して調査しているはずです。何をアウトカムとして定義したのか、用いた用語の定義はどのように設定したのかを、可能なら過去の文献を引用して記載します。
・統計解析
用いた統計解析、統計ソフトを記載します。
特に多変量解析では変数選択などを行ったのかどうかなども記載します。
結果
方法に準じて得られた結果を提示していきます。
図表は一番はじめに作ります。
図表の作り方は、別ブログにまとめさせて頂きました。(こちらからどうぞ)
考察
1stパラグラフ
研究が明らかにした点を記載することがお勧めです。おそらくそれが論文中で最も重要な部分のはずなので、考察の冒頭に記載することで、見逃されることがないようにします。続けて過去の文献を引用して、研究結果を補強します。また、相反する結果の論文があれば提示してその理由を述べます。相反する結果の論文があっても、その引用を躊躇する必要はありません。研究デザイン、医療環境のバックグラウンドの違いなどにより、全く同一の結果が得られなくてもおかしくないケースは珍しくありません。このような一見不利のように見える文献を引用することで、論文の評価や、執筆者の信頼性も高まることでしょうか。
2ndパラグラフ
研究結果で明らかになったことは、おそらく1つだけではないはずですので、2番目に重要なトピックをこのパラグラフで纏めます。書き方のポイントは1stパラグラフと同じです。ただし、多くのトピックがある場合、全てを記載するよりも重要なものだけに絞った方が良い可能性が高いです。(特に初学者の方は、自分では重要と思っていてもそうではないケースが多いので、なるべくトピックを絞ったほうが良いです)
*この後トピックが多いようなら3rdパラグラフ以降に順次まとめていきます。ただし、上記でも記載しましたが、もし執筆経験が少なく、指導者もいないのなら、トピックは2つ程度に絞ったほうがアクセプトされる確立は高くなると思います。(必要性の低い情報が多いほどリジェクトの可能性は高まります)
ここまでがうまく書けていれば、もし必要性の高いトピックを誤って削ってしまっても、レフリーから追記で指摘される程度で済むと思います。それよりも余計なトピックをたくさん書いてしまう方が、リジェクトのリスクは高まります。
*自分の研究結果が提示されず、引用文献だけで構成されるパラグラフをたまに見かけますが、それはなるべく避けたほうが良いと思います。多くの場合、研究結果と関連性の低い不必要な考察である場合が多いです。
*できれば考察の各パラグラフの冒頭で、このパラグラフのトピックが明確になるような文章を記載します。そうでないと読み手は、何が言いたいのか理解できないことが多いです。
3rdパラグラフ
研究の限界を纏めます。サンプルサイズ、データセットに関する限界、定義した用語の限界など様々な研究の限界があるはずです。完璧な研究はありませんので、限界の記載を躊躇する必要はありません。むしろ自分の考えた研究の限界を伝えることで真摯な姿勢をアピールできると思います。単に限界を列挙するだけでなく、その限界を踏まえて研究の解釈にどのような注意が必要なのかも記載する必要があります。
4thパラグラフ
"まとめ"の項目があるようならそこに研究結果と、明らかになったこと、臨床的な有用性を完結に述べます。
その他
表紙や原稿の最後に利益相反などの情報をまとめます。
ここは各投稿規定を十分に吟味することが大切です。
タイトル
単純すぎるものは、不遜な印象(すべてを解決した論文であるかのような印象)を与えてしまうので、研究デザインなどを含めて論文の内容を正確に表現することが必要です。また、宣誓的なタイトル(〇〇は××であった)などのタイトルも一般的には歓迎されないことが多いです。すべての研究が将来的には結果が覆る可能性があるからです。
かなり無難なタイトルとなってしまいますが、
「〇〇と××の関連性:△△解析」などの形が最初は良いかもしれません。
アイデアが詰まった、印象に残るタイトルもあります(twitterで紹介されていました)
こんな素敵なタイトルをつけて論文投稿してみたいですが、今のところ予定はなさそうです。
全体に関する一般的な注意点
文章の羅列にならないように注意します。接続詞を適切に使って、文章がうまく流れているかを確認します。接続詞は多すぎてもいけませんが、一般的に初学者の方はほとんど接続詞を使っていないため、前後関係の流れが不明確な文章であることが多いです。何度も読み直して、自然な流れの文章になっているかを確認します。ここは経験的な要因も大きいので、できれば執筆経験のある方に見てもらうほうが良いと思います。
特にイントロや考察で〇〇らは~の繰り返しは避けた方が良いです。初学者の方に非常によく見かける文章です。読みにくい上、ただ研究結果の羅列になっていることが多いです。(イントロや考察では引用文献の紹介だけでなく、それが自分の研究とどのような関係性があるのかを記載しなくてはなりません)
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